このことは〈かたち〉に残しておかにゃあいかん
丸木位里、丸木俊の大作「沖縄戦の図」は複数の時が運命的に交錯して生まれた。「原爆の図」「南京大虐殺」「アウシュビッツ」と戦後一貫して戦争の地獄図絵を描いてきた二人は、最晩年、沖縄戦に六年かけて取り組んだ。そこには星が会合するような奇跡の物語があった。体験者の最後の証言を聞き、生々しく残る戦地を歩いた。平和を願い描いた二人の作品群の中で、沖縄の図はあますことなく戦争の悪を描き、日本軍の愚かさを伝えてその記憶を未来へ継承しようとする怒りあふれる作品となった。沖縄戦を描いた世界レベルの絵画とそこに込めた不思議なドラマを伝えるドキュメンタリーである。
絵は、1982年から1987年に描かれ全14部からなる。「集団自決」「喜屋武岬」「久米島の虐殺(1)(2)」「暁の実弾射撃」「亀甲墓」「ガマ」「ひめゆりの塔」「沖縄戦の図」「沖縄戦―きやん岬」「沖縄戦―自然壕」「チビチリガマ」「シムクガマ」「残波大獅子」。最後は戦後の読谷村を描き、若者に未来を託す画となった。中心作『沖縄戦の図』は沖縄の戦争のすべての断片が描きこまれ、画面右下の骸骨の中に位里、俊の自画像も描かれ絵の中から未来を見ているような表現となっている。
美術館誕生にもドラマがある。作品を展示する空間ということを超えて、絵と一体で同等の存在である。美術館はフェンスに囲まれ、普天間基地に食い込むように建っているので、米軍機の低空飛行で絵もびりびりと震えるようだ。館長の佐喜眞道夫は普天間基地に接収されていた先祖の土地の一部を取り戻して美術館を1994年に開館した。屋上からは普天間基地が一望でき、その先に米軍が最初に上陸した東シナ海が青く光り、敷地には一族の亀甲墓が絵を見つめている。開館の時「文化が基地を押し返した」と新聞は書いた。位里は美術館が出来た翌年に94歳で亡くなった。
映画は、沖縄戦の図・全14部をのこらず紹介する初めての試みである。個々の絵についての説明や批評はあるが、全部を見ることで初めて画家の思考の軌跡が明らかになる。「空爆」や「空襲」とは全く違う様相を見せた地上戦の真実、戦争に対する告発、最後には未来への祈りを現わしている。全作品はなかなか展示できないので、作品の映像資料的な意味も大きい作品となった。
大きなテーマである体験を風化させず、世代を超えて伝えていくという思いもあり、若い唄者、新垣成世が沖縄民謡でウチナーンチュの心を唄う。幼馴染で平和ガイドでもある平仲稚菜とともにYouTube配信も始めた。佐喜眞美術館で初めて見る「沖縄戦の図」に圧倒され、絵の前で戦世(いくさゆ)のなか生まれた沖縄民謡を絵の中のひとりひとりに語りかけるように歌う。
6年間沖縄に通い続けた丸木位里、丸木俊が残した、アートドキュメンタリー「沖縄戦の図 全14部」は、絵の前に立つ体験と同じように、スクリーンを見ながら改めて沖縄戦を考える作品とした。映像を見て再び絵を見てもらえることを深く望んでいる。
2023/7/29(土)~2023/8/11(金祝) |
- 上映は終了しました -
一般 | 1,800円 |
シニア | 1,200円 |
専門・大学生 | 1,000円 |
中学生・高校生 | 1,000円 |
小学生以下 | 700円 |
会員 | 1,000円 |
★入場システム、サービスデー・その他割引 |